私はこのブログで偉そうに、いろいろ講釈を垂れて解説していますが、このブログでお金に関するマネーリテラシーを必死で説くのには私自身の苦い過去の体験が根底にあります。そして、自分自身への自戒の意味も込め、このブログに書いておこうと思います。
早いものであれから10年以上経ちます。では、当時の時代背景から振り返ってみます。
FXブームに湧いていた大学生時代
為替取引に関する法律が2005年に改正されたことがきっかけで、それから徐々にFX取引が庶民にまで浸透してきました。
株でいう信用取引のようにレバレッジをかけて運用できることから、また数万という少額からでも始められることから、主婦や学生までにも流行っていました。
「ミセスワタナベ」誕生 当時は主婦も熱狂する大ブームだった
当時はドルの金利が3%程度あったため、日本円との金利差からスワップポイント(金利収入のようなもの)を狙った取引が非常に魅力的だと、雑誌やテレビ等のメディアでもてはやされていた時代です。
そういう影響もあり、主婦層も積極的にFXに手を出し、ちょうどそれが「ミセスワタナベ」と呼ばれるようになり始めた時期です。
今では信じられないかもしれませんが、当時はレバレッジを100倍でも200倍でもできましたので、ごく一部ですが、FXトレードで億単位の利益を出す人も出てきました。
そして、その億単位の利益を出した人が”主婦でも1億円稼げるFXトレード”みたいな本を出したり、FX取引の数千万、数億円の利益を脱税して逮捕された主婦が出だしたりと、メディアもこぞってFXで儲かった人の報道をしていました。
最近でいうと仮想通貨のようなものですね。
誰もが1億円を運用できた時代
前述しましたが、当時はレバレッジの規制が今ほど厳しくありませんでしたので、レバレッジ100倍のポジションを持っている人も普通にいました。確かマックスで400倍までレバレッジをかけられたと記憶しています。
仮にレバレッジ400倍の場合、100万あれば4億分のドルを購入し、運用できます。そしてその4億に対してスワップポイントと呼ばれる日米の金利差による収入が得られる訳ですので、それは流行らないわけがありません。一夜にして億万長者になれる可能性がある訳ですから。それに実際、100万円分宝くじを買ったり、競馬をしたりするよりも圧倒的に効率もよかったわけです。
しかし、仮にレバレッジ400倍で4億運用していても、仮に1ドル100円が1ドル100.25円になっただけで強制的に決済され、100万円は一瞬のうちになくなるのです。ですので、億万長者になる人もいると同時に、ロスカット(強制決済)や追証という言葉も流行りました。
ドル円や豪ドル円が大きく下がると電車が止まるとまで言われていました。
今思えば、この「ロスカット」という言葉にもっと耳を傾けるべきでしたが、私もはじめ、金欲に目がくらんだ人間には「億万長者」という言葉しか耳に入ってきていませんでした。
大学生時代にFXで108万円の損失を出した原因
そしていよいよ私は、大ブームにあったFXの悪魔のささやきに抗うことができず、FXで経済的自由を得ようと虎の子貯金の108万円を運用し始めるのです。
大学生なのにお金持ちと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、私は幼少時代からコツコツお金を貯めるのが好きな人間で、誕生日プレゼントにも現金をお願いしていたほどのちょっと異常な少年でした。
この108万円というお金は、私が小さいころから親戚等からもらったお年玉や高校になってアルバイトをして貯めたお金や、大学入学祝にもらったお金など、大げさかもしれませんが、それまでの人生をかけて貯めたお金だったのです。
そして世はFXに熱狂している時代でしたし、私自体恥ずかしながらお金大好きな人間です。当時大学生ではありましたが、こんな私がFXに興味を持たないはずはありません。そして浅はかなことに数冊の本を読んだだけで分かった気になって、すぐに証券会社の口座を開設をしたのです。
これが悪魔のささやきとも知らずに。
原因その① 25倍レバレッジ 推定利回り75%という幻想を追いかけた
大学生といえば、何かと背伸びしたくなる時期です。当時の私は単純にお金が欲しいという欲求だけでなく、為替取引という知的さと、ドルを持っているという謎の優越感からFX取引にのめりこんでいきます。
当時何も考えていなかった私でもさすがにレバレッジ100倍はリスキーだと感じ、とりあえず25倍ぐらいにすることにしました。
というのも、自分が相場を始めた時期のドル円相場はいわゆるレンジ相場(特定の範囲内を行ったりきたり、例えば99~101円で上げ下げしている状態)でしたので、まあ当分はこのレンジ相場は続くだろうと安易な考えで、レバレッジ25倍ぐらいならロスカットにならないと判断したからです。
レバレッジ25倍って言ってもピンときませんが、自己資金100万円で2500万円分のドルを運用するということです。
※本当は108万円ですが、便宜上以下は100万円とします。
仮に1ドル100円とすると、100万円で10000ドルしか買えませんが、25倍の場合100万円で250000ドル買えます。
当時の金利は忘れましたが、ドル建てで日本円とドルの金利差が3%だとすると250000ドルで年間75万円、一日あたり2000円の金利をもらえた計算です。100万円元手で年間75万の金利収入です。いわゆる年利75%です。
そして私が25倍のポジションを経ってからレンジ相場がだいたい3か月ぐらい続きました。その時点で金利収入だけで100万円を元手に約19万円ですからとてつもない利益です。
正直毎日金利収入でウハウハでした。何もせずに毎日2000円チャリンチャリンと不労所得を得られていたわけですから、気分が高揚しないはずはありません。
この話は誰が聞いても、身の丈を完全無視した大きなポジションをとっていることは明らかです。ただし、私はいわゆるバカでしたので、「現代の錬金術だ」なんて思って、深く考えていませんでした。
さらにもっとバカみたいですが、仮に1000万ぐらい貯めて25倍ポジションをとれば毎日2万円でしたから、1000万貯めてリタイヤしようなんて絵空事を本気で考えていました。
原因その② 投資をしていると一種の催眠状態に陥る
投資をしていると私だけかもしれませんが、一種の催眠状態に陥るような気がします。投資している自分に対し、自分が何か高尚なことをしており、周りが全員馬鹿に見えるみたいなことが私には起こりました。
そんな状態ですから、お金を稼ぐためにこつこつバイトしている人をみて、あんなに汗水たらして働くことないのに。投資(FX)をすれば簡単に不労所得が手に入るのに。本気でそう思っていました。
そして厄介なこのような「催眠状態」が往々にして判断を狂わせます。なぜなら今自分が持っているそのポジションに陶酔しているわけですので、そのポジションが改めて間違っているんじゃないかと見直すという行為をしなくなるからです。
今回も例外なく、自分のポジションのとりうるリスクがどうなのか真剣に考えることすらしなくなっていました。
原因その③ ポジションの正当性よりも利益の計算で頭がいっぱい
当時、私の頭の中はポジションをどうするか。予想以上に円高になればどこで売るのか、あるいはどこまで円安になれば一旦利益確定するのか、などは全く考えてもいませんでした。
考えていたのはいくら儲かるか。
「100万円でひと月約6万円、1000万なら約60万円か。適当に就職して、1000万ぐらいためてFXの金利で食っていくか。」
「金利で生活できるなら日本にいる必要はないから海外に移住しよう。移住するならどこがいいかな。ちょっと調べてみよう」
このように自分の頭の中のCPUは、すべてFXの利益について100%使われていて、ほかのことを考える余地はありませんでした。
こう考えていたのは私が大学4年生のころです。当時私は大学院進学予定でしたから、就職活動はしていませんでしたが、就職活動に必死な周りを見て馬鹿じゃないだろうか、自分は適当に働いて超アーリーリタイヤだなんて本気で思っていたわけです。それどころか、いまどきFXをやっていないなんて情報弱者だなとさえ思って見下してさえいました。
最近の例で言うと仮想通貨なんかがそうかもしれません。2017年末から2018年にかけておきた仮想通貨バブルの渦中に
いた方たちも私と同じような精神状態だったのかもしれません。
「いまどき仮想通貨をやっていないなんて馬鹿だ」という声もありましたよね。
話を戻すと、当時の私は金利収入の計算ばかりで、それに目がくらみ完全にリスクを考えていませんでした。
本当に馬鹿でしたね。こんな馬鹿でも大学院まで行ってたんですよ(笑)
FXで108万円ロスカットを受けた当日の心境
FXのロスカットにも冷静な自分から思うこと
私の今回のFXの損失の場合、ドル円が暴落したからではなく、徐々に円高になっていた時期に起こりました。ですので、ある程度の覚悟はできていましたが、やはりロスカット当日の雰囲気は今でも鮮明に覚えています。
ロスカットになる前日には含み損が90万円ぐらいになっていましたので、暴落で失うほどショックは大きくなく、案外冷静でしたが、やはり当日の絶望感は何とも表現しがたいものでした。
含み損が90万円のころは、まだ盛り返せると心のどこかで期待している部分がありますが、その希望が全くのゼロになるのってうすうすわかっていたとしても絶望を感じるものですね。
それはちょうど野球の試合のようです。贔屓のチームが10対0で負けていて9回裏ツーアウトになっているのに応援しているファンに近い心境です。例えそこで最後の打者が内野フライを打ち上げたとしても、まだ終わりじゃない。もしかしたら守備がエラーをするかもしれない。無理だと分かっていてもそう願ってしまう気持ちです。
話を戻しますと、ロスカットが起こった日は通学中、最寄りの駅から大学まで歩いている道中のことでした。8時38分ぐらいでしたね。
証券会社からロスカット通知が来て、あっけなく108万円を失った自分がいました。しかし自分自身は案外冷静でした。
行動経済学には、人は損失が大きくなるほど、その損失の大きさに対して鈍感になり、それほどショックを受けないとありますが、そういう心境だったのでしょうか。通学途中にロスカットになりましたが、普通に大学に行き、普通に友人と会話し、普通に勉強して、自宅に帰りました。
貯金をほぼすべて失ったにも関わらずに普通に日常生活を送る自分を客観的に見て、自分で驚いたのを今でも覚えています。ただそれはもしかしたら、貯金がなくてもなんとかやっていける甘えられる学生の身分だったからかもしれません。
一番つらかったのは家族を見たとき
ロスカット当日の日中は冷静でしたが、自宅に帰ったときは親に顔を向けるのも心が痛くて痛くて辛かったのを今でも覚えています。
そういういたたまれない気持ちになったのは、私が損失を出した108万円は自分でアルバイトで稼いだお金以外にも、親や親戚から今までもらったお金を含んでいたからかもしれません。
さらに、自分では自覚はなかったですが、ずっと顔色も悪かったそうで、親が心配して病院に連れていかれるところでした。
何とか病院に行くのは阻止しましたが、みんなからもらった108万円すっちまったよ。なんて口が裂けても言えませんでした。
私は今もそうですが、もともとお金大好き人間だったので、貯金額=精神安定剤でしたから、無一文になったときは絶望しかありませんでした。
ただ、今見返すと、ただ学生の貯金がなくなっただけの話で、実家住まいでしたから、住むところ、食べるところに困るわけでもないので、生きるには何の問題もありませんでしたし、これから先の長い人生のことを考えると、たかだか100万円な訳ですから、そこまで絶望する必要はありません。
しかし、私は当時未熟で、なかなかそのように自己消化することができませんでしたし、今現在もなお株や投資信託のポジションを取るたびに、このロスカットになったときのことを思い出すので、一種のトラウマのようになっています。
大学生の時にFXで108万円もの大損をしてわかったこと
今振り返ってみると、あの頃108万円もの大損を出してよかったなと思っています。今は強がりではなく心からそう思えます。
というのも、あの損失を経験したから、今ではリスク管理を重視した運用をできるようになりましたし、投資による利益を皮算用することもなくなりました。それどころか、含み益を完全に信用しなくなりました。
そして、投資に対して無知なものほど怖いものがないことも実体験を通じて知ることができ、近年は自身のポートフォリオを設計する際には、最大リスクはどれぐらいあり、仮にその最悪の状況になったとして今の生活を維持できるのか、今持っているポジションはいずれ株価は上がるだろうという希望的観測に基づいたものではないのか、などリスクについて徹底的に調べ、考えるようになりました。
その結果、投資家として良いことではないかもしれませんが、リターンよりもリスクに重点を置いた投資を心掛けるようになりました。
ただ、あれから約10年経った今でもこの話を親にも、妻にも、親友にも誰にもしたことがありません。そういう意味では、まだ自分の中で完全に消化できていないのかもしれません。
しかし、いつか自分の子供が投資に興味を持ちだしたときに、この話を笑ってできるような父親になっていたいです。
ですので私はこれからもまだまだ、投資に対して常に謙虚でいるべきで、市場に残り続けなければいけないと考えています。
以上、長々と私の体験談に付き合っていただき、ありがとうございました。