政府が主導して株式取引を活性化しようと、新制度(NISAやIDECO)を設定したりするなど、一般投資家に対する株の制度は年々改善されてきています。そんな中で株式投資を始められる方も多いのではないでしょうか?
特に、これから株を始められる人、始めたばかりの人に対して、良く株主優待や配当金目的で株を購入するという手法をおすすめする本やメディアがありますが、これは非常に危険なのではと感じています。
実は私も株式投資を始めた頃はSUBARU、JTなど高配当銘柄や吉野家などの株主優待を狙って1年ほど投資していた時期もあります。
そこで配当金目的の投資は得をしないどころか損をしていることに気づきました。また、ただ損なだけではなく、高配当がゆえの見えない危険性もあることにも気づきました。
本記事では、配当金や株主優待をもらっても損をしていること、また高配当銘柄や高優待銘柄への投資の危険性についてご説明したいと思います。
配当金目的の株式投資が損をしている理由
ではまず株価とは何かについてご説明します。
「株価」というのはよく聞く単語ですが、案外きちんと理解できている人は少ないです。かくいう私も株かという数値でしか捉えておらず、意味までは理解していませんでした。
現在示している株価の意味
需要と供給のバランスで決まる
株価は数値で見ると、需要と供給のバランスで決まるので、一般の消費財と同じです。欲しい人がいればいるほど上がりますし、欲しい人がいないと下がりまので、買いたい人、売りたい人のバランスが取れた状態が、今現在の株価ということになります。
つまり株価とは、経済的な意味では、現在のその会社の価値を表すとと共に、未来に対する期待値を加味したものと言えるでしょう。
株価の未来に対する期待値も加味される
例えば、ある企業がガン治療に極めて効果的な薬を開発し販売開始するという情報があった場合、その企業の株価がたいてい跳ね上がります。2倍、3倍になることも珍しくありません。
これは、企業の現在価値にガン治療薬に対する期待が加味された結果なのです。このように株価には、この未来に対する期待値も含まれるというのが大きな特徴の一つになります。
理由その① 配当金を出す分だけ株価が下がる(権利落ち)
現在の株価は企業の価値を表しているものであれば、仮にその企業が配当金を出した場合、その配当金分は企業の価値が下がる訳ですから、株価が下落するということになります。これを専門用語で「権利落ち」といいます。
高配当株の有名どころではJT(日本たばこ産業)があるのですが、JTの場合、総発行株式が20億株、1株あたりの年間配当金が154円(2019年12月予想)ということは3080億円分、配当金に使われるということになります。
JTの時価総額は5.5兆円程度ですから、配当金を出すことによって、約5.6%分の企業価値が損なわれることになります。このため理論的には、配当金を出すたびに5.6%株価が下落するといえます。
JTの権利落ち日の株価推移から見る配当金投資の罠
具体的にJTのチャートを見て比べてみましょう。

JTは2018年の6月と12月に配当金を出しており、直近の2018年12月の権利確定日は12月25日ですので、12月25日時点で株を持っていないと配当金がもらえないことになります。ちなみにこのときの終値は2632.5円です。
次にグラフから読み取るのは権利確定日翌日の12月26日の始値ですが、これは2528.0円です。12月25日の終値と12月26日の始値の差から配当を出すことにより、何%の株価が下がったかを計算すると
(2528円ー2632.5円)÷2632.5×100≒4.0%となります。
上記より配当金5.6%もらって、4%の株価下落だから、仮に税金を考慮しても得したのではないかと思われるかもしれませんが、これには注意が必要です。
というのもJTは12月だけではなく6月にも配当金を出しており、その比率は半分ずつですので、6月に2.8%の実配当金、12月に2.8%の配当金が出ることになります。
つまり、このJTの株価下落のケースは2.8%の配当金をもらうために4%の株価下落を被ったということになりますし、2.8%の配当金をもらったとこで下記のように損失になります。
実質配当金2.8%-株価下落分4%=-1.2%
よって、12月25日の配当金権利確定日にJTの株を購入し、翌日の12月26日の始値で売ったとしたら、1.2%分損したということになります。
これがいわゆる権利落ちによる株価の下落です。ただ、JTの12月25日から26日にかけての株価下落は配当金による下落だけではなく、地合いによるものもあるので一概には言えません。
参考:日経平均株価の12月権利落ち日の株価推移
参考までに当時の日経平均株価のチャートを貼っておきます。

日経平均株価は12月25日時点の終値が19118円で12月26日の終値が18949円ですので、下落基調にあった相場だったということは付け加えておきます。
このように配当金を出した分だけ株価がきっちり値下がりするわけではありませんが、配当金を出した分だけ株価が下がるというのは紛れもない事実ですので、配当金目的による投資は権利落ち日による株価下落を考えると決してお得とはいえないのです。
理由その② 配当金には税金がかかる
では、前述した権利落ちを考慮しても理論的には、5.6%の配当金を得て、5.6%分株価が下がるのであれば結局±0で問題ないのでは、と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、その理屈は株の売買に関する税金を無視していることになります。
株取引する上で「税金」というのはとても重要で無視することはできません。
株式取引に関して利益を得た場合、配当金に関しても税金がかかります。厳密に言うと税率は金額の大小に関わらず20.315%ですが、ざっくり利益に対して20%の税金がかかっていると理解していただけれれば問題ありません。
つまり、先のJTの例でいうと、5.6%の配当金をもらってそのうち20%分は税金でもっていかれるわけですから
配当率5.6%×税率20%(1-0.8)≒実際の配当率4.5%
となります。つまり、株価はきっちり5.6%分下がるのに、配当金は4.4%しかもらえないという計算になります。
以上、理由①の権利落ち日の株価下落および理由②の配当金にかかる税金より、配当金目的の投資は得をしているどころか損をしているという結論になります。
株主優待分の株式投資が損をしている理由
では、株主優待なら税金がかからないから得かと思われるかもしれませんが、結論から言うと株主優待も損をしています。理由は、配当金の時と同様に株主優待を出したことによる株価の下落と優待にかかる税金の影響です。
株主優待はだいたいが、株主優待を発行している企業の製品やその企業で使用できる金券だったりします。
実はこれも配当金の時と同様に、企業価値を下げる行為になるので、金券であれば「金券分」、自社製品であれば「製品価値分」の株価が下落することになります。
また、株主優待は税金がかからないと思われがちですが、株主優待も配当金と同様に税金がかかりますので、優待については雑所得として税務署に申告が必要となります。
ただ、株主優待が果たしていくらの所得に相当するかを算定するのが難しい問題ですので、どれだけの方が正確に申告できているのかが不明ですが、株主優待に関しても税金がかかるということは意外と知らない方が多いので要注意です
また特に注意しなくてはいけないのは、株主優待目的の投資の場合は配当金目的の投資にはないデメリットが2つあるという点です。
配当金投資と比べたときの株主優待投資のデメリット その① 優待の実質の価値は現金よりも小さい
まず株主優待といえば、例えば株主優待銘柄で人気の吉野家では、吉野家で使える金券、すかいらーくグループではグループ内で使える金券、日本ハムでは、自社製品であるハムの詰め合わせという風に自社のサービスを優遇して受けられる権利というのがほとんどです。
ここでまず金券について考えてみると、金券は金券ショップに行くと額面以下で売られていることから、総じて現金よりも価値が低いですし、
日本ハムのような自社製品のハムの詰め合わせであったとしても、実際はその価値よりも安く手に入ります。
例えば1500円分のハム詰め合わせといっても定価1500円なだけで、市場価格が1500円ではないことに注意しなくてはいけません。たいてい、1500円相当というのは定価のことであり、近所のスーパーでは1000円で売っているということはよくあることです。
このように株主優待でも、株価が下落する分を考慮すると全くお得ではないというのが現状です。
配当金投資と比べたときの株主優待投資のデメリット その② 優待を送る手間がかかる
また、細かいことを言えば、配当金と比べ株主優待の方は、株主優待であるが故のデメリットがもう一つ存在します。それは、優待条件を満たす株主ひとりひとりに優待を発送する分経費がかさむからです。
株主優待をひとりひとりに発送するということはその分送料もかかりますし、余剰な人員も必要になります。つまり、株主優待を管理することで、固定費がかさむことで、下記のように結局企業価値を減らし、株価が下落する要因となります。
企業価値が目減りする=株価が下落する
配当金・株主優待を目的とした株式投資の更なる危険性
これまで配当金・株主優待目的の投資は株価の下落や税金により、効果がないということを説明しましたが、この投資法には実はまだ更なる危険性が存在しているのです。
それは、配当金、優待が改悪されれば大きく株価が下落するリスクが大いにあるということす。
たいてい高配当銘柄や優待が良い銘柄というのはいわゆる成熟した大企業が多いです。ここでは便宜上、優待が良い銘柄も高配当銘柄としてお話しします。
株価は現在の価値に未来の価値を加味したものとお伝えしましたが、高配当銘柄は高配当によりこの未来の期待をあげているため、その分株価が高くなっているという点についてはひとつの大きなリスクでもあります。
ある高配当銘柄の現在の株価が1000円、利回り6%と仮定します。
そして、現在の企業価値が800円、配当利回りによる未来の期待値が200円とすると、仮にこの企業の業績が悪くなり、配当が仮に3%まで下げられた場合、未来の期待値が100円となり株価は900円まで下がることになります。
つまり、配当が下げられたことで企業に対する未来の期待が小さくなり、株価が下落するということです。
しかも配当が下げられるということは珍しいことではなく、業績が悪くなると配当が下げられることはよくあります。むしろよくあるどころか真っ先に削られるところです。
例えば2008年のリーマンショック後の2010年にトヨタ自動車が1株あたり100円から45円に配当金を下げましたし、東京電力は2011年の東日本大震災の福島原発の事故により、1株あたり60円の配当が0円になりました。
このように、日本で一番大きいトヨタ自動車でも配当金を下げることがあるぐらいですし、安定していると言われている電力株である東京電力に至っては高配当銘柄から一転して無配当銘柄になってしまったのです。
そして、配当金を下げるということは株価も下がっているということですので、この時点で売るとたいてい大損しますので、配当が下がれば売るという戦略も立てづらいのが事実です。
もちろん、業績悪化により配当金を減らすことがあるということは、業績が良くなったら配当金を増やすこともあるので、高配当株は一概にリスクだけが大きいとは言い切れませんが、すでに高配当であるということはそれだけ成熟した企業という言い方もできるので、配当金を上げる可能性よりも下げる可能性の方が高くなります。
つまり、高配当銘柄はこういった減配リスク(配当金を下げることにより株価が下がるリスク)による危険性もはらんでいます。
配当金・株主優待投資の唯一のメリットは長期保有する精神を保ちやすいこと
これまで私は一貫して配当金戦略は損をしていると主張してきましたが、高配当銘柄にも大きな利点があります。それは、年に数回の配当金をもらうことで、それが精神安定剤となり、株式を長期保有しやすくなるという点です。
例えば、実質利回り3%の株に100万円投資したら、単純計算で年間あたり3万円のリターンが期待できます。その際、仮にこの100万円の株が下落し、90万円になったときに
「まあ配当金が年間3万円入るから売らずに長期保有していこう。」
「株主優待が魅力的なので、価格が下がっても持ち続けよう。」
と考えられるのであれば、高配当戦略はメリットがあります。
仮に配当金を出さない株を保有していると100万円が90万円に下がった瞬間、配当という精神安定剤がないために、悲観的になり売ってしまうこともよくあるでしょう。
株は基本的に私のような株式投資が苦手な人間ほど、株を短期で売買するのではなく、数年~数十年単位の長期で保有するべきと考えていますが、仮に配当金目当ての投資であれば、配当金をもらうことで長期保有できる意思が高まるのであれば、それは非常に有効な戦略だと考えます。
配当金を出す株式会社が少なくなっていく理由
そして最後に余談ですが、私は配当金を出す企業はどんどん少なくなっていくと考えています。
日本にいると気づきにくいのですが、現在の世界の株式市場の6割はアメリカで、日本はせいぜい1割程度です。そして現在アメリカでは、徐々に配当金を出す企業が少なくなり、自社株買いに切り替える会社が多くなってきています。
自社株買いすると、世の中に出回る株の数が少なくなるので、供給減となり、株価は上がります。
つまり、アメリカでは確実に税金により損をしうる配当金で還元するよりも、自社株買いによる株価の値上がりの方が、より株主に利益を還元できるのではないかと考えられている訳なのです。
圧倒的世界一の経済大国であるアメリカがそういう流れになっている以上、日本も配当から自社株買いへシフトしていくのも時間の問題だと考えています。
高配当・株主優待目的の株式投資についての結論
最後に少し話が変わってしまいましたが、配当金・株主優待を狙った投資としてこれまでの説明をまとめますと、以下のようになります。
- 配当金・株主優待は一見お得なように見えるが、株価の下落、税金を考慮すると損をしている。
- 株主優待でも税金がかかり、税務署への雑所得申告は必要である。
- 高配当銘柄や株主優待が良い銘柄には減配リスクがあることを理解しておく。
- 配当金・株主優待が精神安定剤となり、それにより株式を長期保有できるのであれば有効な投資法といえる。
以上、株を保有しているだけで、配当金や株主優待をもらえると思えばなんだか得のような気もしますが、よくよく考えてみると実際は得ではないどころか損をしているというお話でした。
私もこの事実に気づいてからは配当金・株主優待狙いの投資を一切やめました。この記事があなたにとっても、一度ご自身の投資スタイルを見直す機会になれば幸いです。